読んでる本: レイモンド・チャンドラー『さらば愛しき女よ』

訳文には引っかかるものがあったりするが、毎晩 レイモンド・チャンドラーさらば愛しき女よ』(清水俊二・訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)を読んでいる。

 

たとえば今夜は263ページから読むことになるが、

 

 建物は3階で、屋上に鐘楼があり、・・・

 

という文がある。意味は分かるからいいようなものだけど、普通なら 「3階建てで」 としないだろうか。

 

「オフィスは3階にあって ・・・」 という意味の文なら 「3階で」 でもいいだろうけれど、そうではないのだ。主語は 「建物」 なのだから。

 

 

たとえば195ぺーじに、こんな文があった:

 

 あの娘がブレインさんに呼んで聞かせていたのは、・・・

 

正しくは 「読んで聞かせていたのは」 であるのは明らかだが、これは訳者のミスではなくて、出版した側の問題。1976年に出ていて、私の手にしているのは1995年の [四十四刷] なのだが、その間に気が付いても放置してたのだろうか。

 

 

とか何とか言いながらも、作品自体は面白い。それに、こういう訳文でも、読む上で問題はない。むしろ、流麗な日本語に訳されているよりも、こういう翻訳の方が好ましく思われるくらいだ。

 

会話、やりとりなんかも面白い (中には翻訳では分からないのもあったけれど)。

 

チャンドラーって、こんな面白い小説を書いた人なのか。

 

 

昨夜、ふと思い出したのだが、あるいは記憶違いかもしれないのだが、むかし、相当にむかし、ひょっとしたらチャンドラーを読んだことがあったかもしれない。

 

何となく文庫本の表紙を思い出したのだ。『長いお別れ』 だったような ・・・ ただし、訳者は清水俊二ではなかったような気もする。

 

でも、内容はまるで覚えていない。一応は読んだというだけのことだったのだろう。

 

しかし今はチャンドラーの小説が面白く読める。この年になったせいだろうか。

 

それとも、清水俊二の訳のおかげなのだろうか (ケチをつけておいて言うのも何だけど ・・・)。

 

 

上に引用した 「3階の建物」 のことだが、それは警察署だと思われる。

 

だって、マーローは署長に会いに行ったのだから。

 

ところが、その32章の直前、31章の末尾には

 

 私は、・・・ 市役所へ車を走らせた。

 

とある。いくら何でも、市役所に警察署の署長の部屋があるわけはない。

 

「市役所」 ではなくて 「警察署」 の誤りだろう。

 

こんな分かりやすい誤りが、なぜ訂正もされずに活字になってしまったのか、理解に苦しむ。