ジョー・ネスボ 『その雪と血を』 という小説は、たとえば 『レパード』 などと比べると短い。
読みやすくもある (翻訳者が優秀であるという面もあるのかもしれないが)。
ハヤカワ・ミステリ版の解説者は 「不自然なまでに美しい暗黒の叙事詩である」 なんて書いているが、読後の印象をそういうふうに表わせなくもない。
これは、クリスマス物語という性質も持っている (最後は犯行の舞台が教会で、しかもその日はクリスマス・イブだ)。
また、読みようによっては、ファンタジー小説と言えなくもない気もする (妖精も魔法使いも出てこないが、主人公にとっては人生がファンタジーかもしれない)。
人を殺すという冷酷な現実があり、しかし現実を自分なりにファンタジー化して、その幻想を真実であるかのように呼吸しながら生きている。
最後の場面。こんなのは読んだことがない。
血は立ったまま眠っていると書いたのは寺山修司。
立ったまま死ぬ者はいない、という文句が Katherine Pncol の 『クロコダイルの黄色い目』 の初めの方に出てくる。
ネスボのその小説を読んで少し時間が経ったのに、ふと、そんなことが頭に浮かんできた。
それにしても、ストーリーを紹介してしまう愚を避けながら説明するのはむつかしいな。